Excelや既存GISで本当に十分か?自治体予算査定で地理空間情報の「費用対効果」を説明する論理
新規のデジタル施策や、GIS(地理空間情報)を活用した事業を企画する際、多くの担当者の方が直面するのが、財政課や査定担当からの「いまExcelで管理できているんじゃないの?」「庁内にGISシステムがもうあるでしょう?」という「既存のツールで代替できないのか」という指摘です。
これは財政課の担当者が意地悪をしているわけではありません。彼らの仕事は限られた予算を適正に配分することであり、「現状でも動いている」ように見えるシステムへの追加投資には、当然ながら合理的な説明を求めます。
この記事では、その問いに正面から答えるための考え方を整理します。「便利になります」という説明では財政課は動きません。「どこのコストが、なぜ下がるのか」を具体的に示すことが、予算査定を通す最短ルートです。
「Excelで十分では?」への答え ― 見えていないコストを数える
Excelによる地図データ管理が抱える本質的な問題は、「できないこと」ではなく「請求書に載らないコスト」にあります。
まず、更新・照合にかかる職員の時間です。空き家台帳をExcelで管理する場合、現地調査の結果を手入力し、複数担当者の情報を突き合わせ、地図との対応を目視で確認する作業が毎回発生します。1件あたりの時間は短くても、件数が増えるにつれてこの積み重ねは膨らんでいきます。
次に、担当者が変わるたびに発生する引き継ぎの手間です。Excelは独自ルールで列が追加されがちで、古いバージョンのファイルが複数に増えがちです。「動いているように見えて、実は壊れやすい」状態が長年続くことも珍しくありません。
そして最大の問題は、Excel単体では、庁内での継続的な情報共有や住民への公開に対応した地図連動が難しい点です。「この住所の建物が地図上のどこにあるか」を確認・共有するたびに別のシステムを開く手間が発生し、台帳と地図が常にズレた状態で運用されます。
実際に当社システムを導入していただいている焼津市では、以前のシステムでデータの更新・追加に多額のコストがかかっていたことが導入見直しの一因となりました。Geoloniaの基盤に切り替えてからは、職員が使い慣れたスプレッドシートにデータを入力するだけで地図に反映されるようになり、更新コストと市民からの問い合わせ負荷がともに下がっています。
Excelのソフト代はゼロに見えても、それを維持するための人件費・引き継ぎコスト・ミス修正コストを合計すると決して安くはない——そこを起点に説明することが有効です。
「庁内GISがあるでしょう?」への答え ― 導入費だけで比べない
既存GISシステムへの問いには、「導入費だけで比較するのは不公平」という視点で返すのが有効です。
オンプレミス型(庁内サーバーを自前で持つ構成)の庁内GISには、導入時の費用以外にも毎年かかり続けるコストがあります。サーバーのハードウェア保守契約、データセンターの利用料、OSやソフトウェアのバージョンアップ対応——これらはシステムを「使わなくても」請求が来るコストです。さらに、ユーザー数や機能ごとにライセンスが必要な製品では、利用する職員が増えるたびに費用も増えていきます。「使う人が増えるほど高くなる」構造は、庁内での活用拡大を自ら妨げてしまいます。
一方、クラウドベースの設計では、自治体側がサーバーを「所有・管理する」必要がなくなります。ハードウェアの調達費・保守契約・データセンター利用料といったインフラ起因のコストが不要になり、庁内のIT担当者がサーバー管理に追われる負担も生じません。なお、クラウド型でも運用保守費は発生しますが、その費用は定額のため毎年の当初予算に計上しやすく、「いくらかかるかわからない」という不確実性がありません。ハードウェアの老朽化による突発的な更新費用や、バージョンアップのたびに発生する追加費用とは異なり、コストが安定している点が自治体の予算管理とも相性がよいと言えます。
高松市は、先行して別のシステムを導入していましたが、「他部署への展開が難しく、分野間連携が起きない」という状況に直面しました。Geoloniaの地理空間データ連携基盤に切り替えてからは、防災・交通・市民サービスなど複数の分野に展開が進み、市自身が「基盤の台帳管理部分だけとっても、以前よりコストカットできている」と述べています。
比べるべきは導入時の金額だけでなく、5〜10年かけてかかる費用の総計です。サーバー保守・ライセンス・バージョンアップ・IT担当者の管理工数まで含めて並べると、クラウド型はハードウェア起因の不定期出費がなく、運用保守費も定額のため複数年にわたる予算計上がしやすいことが見えてきます。
「1つの基盤を複数の業務で割る」と費用対効果が変わる
費用対効果の考え方で見落とされがちなのが「横展開」の効果です。
地理空間データ連携基盤を空き家対策だけのために導入するなら、費用対効果の計算は限定的です。しかし同じ基盤が、道路・橋梁などのインフラ管理、防災・避難マップ、福祉施設の分布把握、都市計画情報の公開など、複数の業務で共用できるとしたらどうでしょう。
高松市では、1つの基盤から「高松市スマートマップ」「災害対策アプリ」「たかまつマイセーフティマップ」「どこ駐車ナビ高松」など多数のサービスを展開しています。焼津市でも防災情報のリアルタイム表示から市民の投稿機能まで、同じ基盤を起点に機能を拡充しています。
コストは基盤1つ分でも、生まれる価値は複数業務分——この構造を「1つの基盤を何課で割るか」という視点で説明すると、1課あたりの負担額は大幅に下がります。
ただし、複数課での共同調達や予算の按分は、縦割りの予算構造を持つ自治体では調整が必要になる場合もあります。まずは1課での導入実績を作り、横展開した場合には1課あたりのコストがさらに下がる試算を示しながら、将来の拡張性を含めて評価してもらう——そうした段階的なアプローチも現実的な選択肢です。
「今変えないこと」にもコストがある
最後に、財政査定でしばしば見落とされる視点が「現状維持のリスク」です。
空き家調査を今の体制のまま続けた場合、年々増加する空き家への対応の優先順位づけが難しくなっていきます。改正空家等対策特別措置法への対応が求められる中、「どこに何軒あるか把握できていない」という状況が続けば、住民からの苦情や議会での質問に対する説明責任も重くなっていきます。
「変えないこと」はコストがゼロに見えますが、将来の対応コストとリスクを先送りにしているだけです。この視点を加えることで、「今なぜ投資するのか」をより説得力を持って伝えられます。
財政課と「同じ言語」で話す
「機能が増える」「便利になる」という説明は、財政課には響きません。彼らが聞きたいのは、「どのコストが下がるのか」「なぜ今なのか」「他の選択肢と比べてなぜこれなのか」という問いへの答えです。
今回は空き家対策を例に挙げましたが、インフラ管理・防災・福祉など地図を使うあらゆる業務で同じ考え方が適用できます。今回整理した4つの視点——
- 見えていない人件費の可視化
- 導入費以外の維持コスト(総費用)の比較
- 横展開による1課あたりコストの低減
- 現状維持(変えないこと)のリスク
これらを組み合わせることで、「導入費の高低」だけの議論から脱することができます。
Geoloniaでは、自治体の予算査定に向けた費用対効果の整理や、導入検討段階からのご相談も承っています。「財政課を説得する材料が欲しい」という段階からでも、お気軽にご連絡ください。
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