通学路DXの「その先」へ。危険箇所データを“都市の資産”に変える、発見・改善・検証のサイクル

デジタル化はゴールではなく「スタート」

多くの自治体で、通学路の安全点検業務のデジタル化が進んでいます。 以前の記事(通学路の「紙と手作業」を卒業。デジタル化で実現する持続可能な安全管理)でもご紹介した通り、紙の地図やハンコのリレーをなくし、デジタル上でデータを集約することは業務効率化の大きな第一歩です。

しかし、地図データ化が進み、業務が楽になったところで、次に見えてくる「新たな課題」があります。 それは、「地図上で可視化されたのに、現場の危険がなかなか減らない」という悩みです。

「毎年の点検で同じ場所が指摘される」
「対策の進捗が追えず、議論がループしてしまう」

こうした状況を脱却するためには、業務をデジタル化するだけでなく、意思決定のプロセスそのものをDX(トランスフォーメーション)する必要があります。危険箇所を単なる「地図上の点」として見るのではなく、解決すべき「構造化されたデータ」として管理し、都市の安全性をアップデートし続ける仕組みへの転換です。

なぜ、危険箇所は「減らない」のか?:データ不在の意思決定

地図ができても危険箇所が減らない最大の原因は、対策の優先順位が属人的になりやすく、箇所間の比較や説明が難しいことです。

  • 責任の分散: 教育委員会、道路管理者、警察の間でボールが落ちてしまう。
  • 基準の曖昧さ: 「なんとなく危ない」で議論され、緊急度の高い箇所と比較できない。
  • プロセスのブラックボックス化: 住民からは「要望を出したのに無視された」ように見えてしまい、説明コストが増大してしまう。

スマートシティの文脈では、これをEBPM(証拠に基づく政策立案)に近づけていくことが重要になります。個々の声を軽視するという意味ではなく、危険箇所を構造化データとして蓄積し、「どこが・なぜ・どの条件で危ないのか」を比較できる状態をつくる。限られた予算を最適配分するための「説明可能なルール」を持つことが、通学路DXの次の段階です。

「発見→改善→検証」を回すデータ基盤の作り方

では、具体的にどうデータを整備すればよいのでしょうか? 私たちは、以下の3ステップでデータを「資産化」することをお勧めしています。

Step 1. 発見:データを「構造化」する(標準化への第一歩)

まず、危険箇所をフリーテキストのメモではなく、分析可能な「データ(レコード)」として定義します。 重要なのは、対策」を書く前に、客観的な「状況」を属性データとして記録することです。

  • 位置情報: 緯度経度(可能な範囲で)
  • 事象タイプ: 見通し不良、速度超過など(カテゴリ化)
  • 発生条件・影響度: 時間帯、通行量など

このようにデータを構造化(標準化)しておくことで、将来的には他自治体との横展開や、標準的なオープンデータ項目への接続もしやすくなります。

Step 2. 改善:スコアリングによる合意形成

DXの肝は、判断を「自動化」することよりも、判断プロセスを透明化し、再現性と説明可能性を高めることです。 すべての要望に対応できない中で、関係者が納得して対策を進めるためには、データに基づいた「スコアリング(優先順位付け)」が有効です。

  • 重大性、露出度、再現度、実現性などで簡易スコア化(10点満点など)

「スコアが高いから、ここを最優先で予算化しよう」という客観的な基準があれば、縦割り組織間の調整コストは劇的に下がります。また、対策を「暫定(すぐやる)」「恒久(予算確保)」の2レーンで管理することで、スピード感のある対応が可能になります。

Step 3. 検証:結果だけでなく「プロセス」を可視化する

対策の効果を検証する際も、データを用います。 「事故が減った」という結果指標だけでなく、「速度が〇km落ちた」「見通し距離が〇m伸びた」といった具体的なBefore/Afterデータを残してください。

そして最も重要なのが、ステータス(進捗)の可視化です。 「調査中」「予算要求中」「工事待ち」といったステータスをデータとして管理し、可能であれば個人情報に配慮した粒度で住民にも公開する(オープンガバメント)。 「放置されている」のではなく「順番待ちである」ことが可視化されるだけで、行政への信頼感は大きく変わります。

通学路データが「スマートシティ」の礎になる

私たちが目指しているのは、単なる業務ツールの導入ではありません。 通学路の危険箇所データが整備され、常にアップデートされる状態になれば、それは「地域の安全を守るデジタルツイン」へと進化します。

  • 都市計画への活用: 危険箇所データを分析し、まちづくりや道路計画の段階でリスクを回避する。
  • 防犯・見守りの最適化: 危険度スコアの高い場所に、見守りボランティアやスマート街灯を重点配置する。
  • MaaS・自動運転との連携: 「この交差点は子供の飛び出しが多い」というデータを、将来的に自動運転車や配送ロボットが読み込み、安全走行に活かす。

Geoloniaが提供する地理空間データ連携基盤は、こうした「データが繋がり、活用される未来」を見据えて設計されています。

地図作りから、安全なまちづくりのプラットフォームへ

通学路DXのゴールは、地図を作ることではありません。 危険箇所を「データ」として捉え、発見から改善までのサイクルを回すことで、持続可能な安全なまちづくりのプラットフォームを構築することです。

Geoloniaでは、地図データの整備から、庁内連携をスムーズにする案件管理の仕組み、そしてスマートシティを見据えたデータ活用まで、一気通貫でご支援しています。 まずは手元の情報を「構造化されたデータ」にするところから、一緒に始めてみませんか?