第1回: 地理空間データ連携基盤 - スマートシティとは?データで繋がる、未来のまちづくり

「スマートシティ」や「自治体DX」の推進されている皆さんの中には、「何から手をつければいいのか…」「データ活用と言われても、具体的にどうすれば…」「調べ物をしていてもよくわからない…」と、戸惑いや難しさを感じている方も少なくありません。

今日から始まる 全16回(予定) の連載「地理空間データ連携基盤」では、複雑に思えるスマートシティやデータ活用の世界を解きほぐし、スマートシティ推進をより簡単にする「地理空間データ連携基盤」の仕組みについて、分かりやすく解説していきます。

連載を読むと、、、

  • デジタル化推進の担当者にとって: データ利活用を理解できます。課題解決や新しい価値の企画立案をする力を高め、関係者を主導してDXを力強く推進させることができます
  • 行政職員にとって: データが、日々の業務改善やサービス向上に直結することを実感できます。業務負担を軽減し、近未来の行政サービスの可能性を想像し、自ら提案することができます
  • 市民にとって: テクノロジーとデータが、より安全・安心、便利で豊かな暮らしをどう実現していくのかが分かり、共感と期待を持ってまちづくりに参加できます

この連載が、より良い社会を共に創るための一助となれば幸いです。

「スマートシティ」とは何か?

スマートなシティとは?賢い町?国の定義を参照し、簡単に要約します。

国が示すスマートシティの定義

グローバルな諸課題や都市や地域の抱えるローカルな諸課題の解決、また新たな価値の創出を目指して、ICT 等の新技術や官民各種のデータを有効に活用した各種分野におけるマネジメント(計画、整備、管理・運営等)が行われ、社会、経済、環境の側面から、現在および将来にわたって、人々(住民、企業、訪問者)により良いサービスや生活の質を提供する都市または地域

要約すると、スマートシティとは、「デジタル技術データ を使い、地域の 課題解決 と新しい 価値の創造 をする都市または地域」のことです。

デジタル技術は、IoT、AI、クラウド、ロボット、デジタル地図などのことです。

データは、施設やインフラのリスト、テキスト、画像などコンピュータで検索・並べ替え・分析できる情報のことです。さまざまな種類があるので、連載の中で詳しくみていきましょう。

課題には渋滞緩和、防災、観光振興、インフラ維持管理、環境保護、子育てや福祉支援などがあります。もっとも根本的な課題は、人口問題(都市への偏り、人口減、少子高齢化)、災害の頻発・激甚化、インフラの老朽化です。

価値とは、災害で人が死なないこと、儲かること、効率よく手続きや仕事や移動が終わること、持続可能性が上がることなどです。課題の裏返しであったり、従来はなかった利便性であったりします。

課題と価値は地域によって優先順位が違います。そして、シティーとは言うけれども、都市に限らず、地域全体や過疎の進む地域にもスマートシティは必要とされています。

(画像出典: 内閣府スマートシティページより、「スマートシティの実現イメージの図」)

スマートシティ実現には「データ活用」が不可欠、しかし…

スマートシティには、「データ」が極めて重要です。街やお金や気候などを、コンピュータを使って理解するからです。データがなければスマートシティは始まりません。

一方で、現場には多くのデータ課題が存在します。

  • データが無い(と思っている)。どこに、どんなデータがあるのが不明
  • データを使って何をするのか、具体的な方法が分からない
  • 異なる部署やシステムのデータを連携できない
  • データ形式がバラバラで、収集・加工に多大なコストと労力がかかる
  • 一回整備して更新ができない

いわゆる先進自治体と呼ばれる、何年も取り組みを進めている自治体であっても同じ課題感を伺うことがあります。

この 「データ活用の難しさ」こそが、スマートシティ実現に向けた核心的な課題の一つ と言えます。

データ活用の課題と、解決のための仕組み

この核心的な課題である「データ活用」をするために、これまで様々な仕組みが検討・導入されてきました。「都市OS」や「データ連携基盤」といったコンセプトや、具体的な実装「FIWARE」などのことです。

これらの仕組みは、都市に散在するデータを収集・管理し、サービス間で利用可能にすることを目指しています。しかし、技術的な難しさや、コスト、特定のベンダーへの依存といった問題は生じており、期待された効果は発揮されていません。

FIWAREについては、『FIWAREって何?スマートシティの「リアルタイムデータ」活用の鍵』でも解説しています。

注目される「地理空間データ連携基盤」

こうした中で注目されているのが、「地理空間データ連携基盤」です。

これは、役所や国、民間企業などが持つ 様々なデータをあつめ、誰もが簡単に利用できる「共通の地図」として提供する デジタルプラットフォームです。

スマートシティで使われるデータの大部分は、地図に紐付けることができる「地理空間情報」「地理空間データ」です。これらをまとめてデジタル地図に落とし込むことで、連携を一気に済ませてしまうコンセプトです。

この基盤を導入・活用することで、何が変わるのでしょうか?

  • データの壁がなくなる: 形式や所在がバラバラだったデータが一つの地図にまとまり、システムや部署の垣根を越えて容易に組み合わせ、表示・分析できる
  • 国のデータが即座に利用可能に: 国土交通省、国土地理院等が整備するデータ(ハザードや都市計画、地形、過去と現在の衛星写真、標高など多種多様)が最初から使える
  • アプリケーション開発が加速する: 基盤が提供するAPIとSDKを使うて、地図を再利用するアプリケーションを作成できる。従来は時間と費用がかかっていたサービスを、迅速かつ低コストで 開発できる

データ連携の複雑さを解消し、データ活用のハードルを下げることで、スマートシティの取り組みを前進させているのが地理空間データ連携基盤が注目されている理由です。

SCRA(スマートシティリファレンスアーキテクチャ)における位置づけ

地理空間データ連携基盤は、スマートシティ推進における根本的な課題であった「データ連携・活用」を解決し、具体的なサービス創出を可能にする実績を示してきました。

内閣府が全国の取り組みの基本文書として公開している スマートシティリファレンスアーキテクチャ(Smart City Reference Architecture, SCRA) では、地理空間データ連携基盤はスマートシティの 中核機能の一つ として位置づけられています。SCRAは、スマートシティを効率的かつ効果的に実現するための「設計思想」や「参照モデル」であり、この基盤が今後のスマートシティ推進において不可欠な要素であるということです。

連載の全体像

この連載「地理空間データ連携基盤」は、スマートシティと基盤について、データ、課題、仕組み、使い方、事例、調達などの切り口で具体的に丁寧に分かりやすくまとめていきます。

最後までお読みいただくと、以下の知識や理解を身につけることができます。

  • 地理空間データ連携基盤の 意義と全体像
  • データを収集・変換・配信する 基本的な仕組み
  • 地図タイルや空間IDなど、関連する 技術の概要
  • 導入・活用に必要な 仕様書の考え方や書き方
  • 都市OSやFIWARE、GISといった 周辺技術との関係
  • 先進自治体における 課題や具体的な取り組み事例

スマートシティをシンプルに理解したみなさんが、自治体におけるDX推進のキーパーソンとして活躍できる ことを目指して執筆します。

次回予告

次回は、「第2回: 「地図データのサイロ化」を解消!地理空間データ連携基盤がもたらす3つのメリット」と題し、この基盤が具体的にどのようなメリットをもたらすのか、さらに詳しく掘り下げていきます。

ぜひブックマークしたり、SNS(XFacebook)をフォローしたりしてこれからの連載にご期待ください。

連載の目次

【導入編 | Introduction】 (2記事)

  • 第1回: スマートシティとは?データで繋がる、未来のまちづくり
    (スマートシティの定義、データの重要性、基盤の概要)
  • 第2回: データ連携の壁「サイロ化」とは? - 地理空間データ連携基盤で解決する3ステップ
    (データサイロ化の問題点、3ステップ「データ接続・集約」「見える化」「活用」)

【アーキテクチャ編 | Architecture】 (4記事)

  • 第3回: 基盤の心臓部!『連携層』の仕組み - 地図データを誰もが使える形に変える技術
    (連携層の役割「収集」「変換」「配信」)
  • 第4回: 『データ層』 - 連携層へデータを供給する土台
    (データ層の役割、利用可能なシステム(CKAN, GitHub等))
  • 第5回: 地図が動く、サービスが生まれる! 『アプリケーション層』の可能性
    (アプリケーション例(公開型GIS, 防災, 観光等)、API/SDKの役割)
  • 第6回: データはどこからやってくる?連携基盤を支える多様な『データソース』
    (庁内GIS/個別GIS/Excel, 国土数値情報等、地理院地図タイル, 重ねるハザードマップ、民間データ、市民提供データ等)

【主要技術・連携編 | Key Technologies & Integration】 (5記事)

  • 第7回: 地図タイル技術:ベクトルタイル・データPNG・高速化の裏側
    (地図タイルという大発明、ベクトルタイルやデータPNG、クラウド技術による高速化)
  • 第8回: 空間ID:データ連携をスムーズにする「場所の共通言語」
    (空間IDの概念、連携基盤との関係)
  • 第9回: 統合型GIS! - 庁内データを最大限に活かす連携術
    (統合型GISの役割、連携基盤との連携)
  • 第10回: 自治体オープンデータカタログ活用 - CKANやGitHubをデータ層に
    (オープンデータカタログの課題と解決方法)
  • 第11回: FIWARE/都市OSとの最適な関係 - それぞれの得意分野を活かす
    (FIWAREの特徴、連携方法)

【応用・事例編 | Application & Case Studies】 (3記事)

  • 第12回: 人流データ×地図=未来予測? デジタルツインへの応用
    (デジタルツインと基盤、人流データの可能性)
  • 第13回: 高松市・焼津市に学ぶ! 地理空間データ連携基盤 導入のリアルと効果
    (事例、導入プロセス、ぶつかった課題、得られた効果や市民・職員の声)
  • 第14回: 低コストで始める第一歩 - 地理空間データ連携基盤のスモールスタートガイド
    (導入・活用を始めるための考え方、段階的な導入ステップ、調達書類の具体例)

【発展・まとめ編 | Development & Conclusion】 (2記事)

  • 第15回: データで未来を描く - 地理空間データ連携基盤が拓くデータ駆動型の未来
    (EBPM、民間ビジネス、デジタルツインの完成とマイナンバーとの合流)

(注: 各回のタイトルや内容は、執筆を進める中で変更される可能性があります)